消費者金融が借り手全員に生命保険を掛けていた問題で、大手の1社が自己破産後に死亡した顧客を住民票で確認し、生命保険会社に保険金を請求して債権を回収していたことが分かった。自己破産者の債務は法的に免責されており、業界団体も問題視している。この大手を含め、業界では今後は保険をやめる動きが相次いでいるが、これまで行われてきた安易な債権回収の実態が改めて問われそうだ。【多重債務取材班】
関東地方の元大手社員の30代男性は、支店を経て本社の債権回収部門に勤務した。20以上の班に分かれ、各班には毎月1500万〜1600万円の回収ノルマが課された。12月には翌年の3月期決算に向けて回収額の上積みが求められたという。
この際、自己破産者など一般顧客と異なる借り手だけを記載した「別管」と呼ばれる台帳も利用。顧客の住民票を役場に請求し、死亡が確認できれば保険金を請求したという。破産法によると、自己破産した人の債務は免責され、本人が任意で支払う場合以外は取り立てられない。元社員らは「厳しい債権回収ノルマを達成するためだった。保険会社に破産者と知らせたら保険がおりないと思い、黙っていた。他の書類が整っていれば機械的に保険がおりた」と証言する。
全国貸金業協会連合会(東京都港区)は「自己破産が確定した時点で業者は債権を放棄するので保険請求は通常ではあり得ない」としている。
98年に自己破産した宮城県内の男性(38)は04年、この大手が役場に住民票を請求したことを知った。近くに住む自己破産した親族も住民票を請求されていた。男性は「私たちが死んでも追いかけてくると思うと、恐ろしい」と話している。
また元社員らによると、死亡の可能性が高い高齢者の顧客リスト「昭和一桁(ひとけた)台帳」も使って集中的に住民票を請求し、死亡確認をしていた。元社員の一人は「死亡していれば保険金が入るため、社内では『生命保険』ではなく『死亡保険』と言っていた。班対抗で必死の保険金獲得競争をさせられたので、スポーツのリーグ戦に例えて『デッド(死の)リーグ』と呼んでいた」と言う。
司法統計によると個人の自己破産の申し立ては、85〜90年まで1万件前後だったが以後急増。03年は史上最多の24万件を突破し、05年速報値でも18万4324件。
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毎日新聞 2006年10月5日 東京朝刊