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2006年08月12日

最後の頼りが消費者金融、出口は見えず−−長崎・対馬

◇国境の島、不況どん底−−自殺率10年で3倍

 大都市の景気回復から地方が取り残されていく。その縮図が国境の島にある。人口3万9000人の長崎県・対馬。かつて真珠養殖やイカ漁で繁栄したが、今は多重債務にあえぐ。自殺率は10年前の3倍に増え、昨年は18人に上った。企業の撤退、三位一体改革による公共事業削減、金融機関の破たん……。生活に困窮した島民が最後に頼るのは、消費者金融だった。【多重債務取材班】

 深い山を背にしたつづら折りの海岸線に真夏の日が照りつける。7月末、山間の畑で50代の夫婦が草を刈っていた。「こん島じゃ、借金でもう何人死んだとやろ」

 真珠の母貝を養殖していたが、親会社が業績不振で撤退し、5年前に廃業した。副業の土木仕事も国の補助金削減で細った。生活費に困り、妻は消費者金融に電話をかけた。金利は高く元金は減らない。月15万円足らずの収入から5社に計12万円を返すようになった。

 今年5月、弁護士に相談し、利息制限法を超えるグレーゾーン金利での支払いは取り戻せることを知った。「やっと暮らしていける」と安堵(あんど)したのもつかの間。知人の連帯保証人になっている妻に、漁協から1500万円の請求がきた。水揚げは年々減り、ガソリン代は高騰。漁に出れば赤字になる日もある。お互い保証人になり漁協の融資を受けている。「タコが足ば食うようなもん」。夫婦にはもう自己破産の道しか残されていない。

 入り江の民宿「公船荘」はこの日、客は記者1人だけだ。「銀行がもうちょっと返済を待ってくれとったら」。経営者の黒岩二三男さん(61)の妻通子(ともこ)さんが自ら命を絶ったのは昨年暮れのことだ。

どうしよう  夫婦の貯蓄と銀行の融資3000万円で12年前に開業した。しかし、不況とともに、観光客の足は運賃の高い国内の離島より海外へ向かう。経理を任されていた通子さんは夫に相談することもなく、資金繰りに奔走した。消費者金融4社にも約800万円の借金があると夫が知るのは、自殺後に取り立ての電話が鳴り続けてからだ。

 黒岩さんは個人民事再生手続を申請し、経営を続けている。「妻は民宿に懸けとった。ここだけは守ってやらんと」。夫婦で磨きあげたヒノキの柱を見つめた。

 県内では6年前に信用組合が経営破たん。融資業務を行う漁協も自己資本比率10%の達成を義務づけられ、貸付残高はこの2年間で16億円も減った。昨年は地銀が2年連続で金融庁の業務改善命令を受けた。貸し渋りや貸しはがしを受ける人が増えた時期と重なる。

 5月中旬。島中部の公民館で無料法律相談会が開かれ、30人近い島民が詰め掛けた。消費者金融5社から融資を受けた建設業者の妻は疲れ切っていた。「返済のために借りる繰り返し。悔しくて悔しくて……」。島唯一の法律事務所にも昨年9月の開設以降約150件の相談があり、4分の3を多重債務問題が占める。大出夏海弁護士は「ここでは消費者金融がセーフティーネットになってしまっている」と言う。

 島の中央にある3店の大型パチンコ店は平日も駐車場がいっぱいだ。向かいに、大手消費者金融3社の無人契約機が並ぶ。島で栄えている業種は他にない。

   ×   ×

 戦後最長の「いざなぎ景気」超えが確実とされる日本は自殺者が8年連続3万人を超え、うち8000人を「生活・経済苦」が占める。多重債務問題が深刻化する中、国会ではグレーゾーン金利の撤廃論議がヤマ場を迎える。格差社会で何が起きているのか報告する。

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 ◇求人倍率0・18

 長崎県の有効求人倍率は0・63倍(今年6月)と全国最低水準で、国の特別対策地域に指定されている。対馬市は県内で最も低い0・18倍。自治体の借金に当たる地方債の発行残高は1人当たり160・4万円(04年度末)で、政令指定都市などを除く全国の市で最多。昨年の人口10万人当たりの自殺者数は46・3人に上り、全国平均の2倍近い。

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 情報をお寄せください。ファクス(03・3212・0635)、Eメール t.shakaibu@mbx.mainichi.co.jp 〒100−8051 毎日新聞社会部多重債務取材班。

毎日新聞 2006年8月12日 東京朝刊
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2006年08月15日

広がる多重債務 「勝手に、命担保」 取り立ての末…自殺

◇女性の遺族「許せない」

 走り書きの遺書があった。「照美 子供を大切に」。穏やかな老後が待っているはずの母は多重債務の取り立てに苦しみ、自ら命を絶った。しかも命と引き換えに借金を清算する消費者信用団体生命保険がかけられていた。消費者金融の元社員は「債務者が自殺しても何も感じなくなってしまった」と言う。娘はあきらめ切れない。「人の命をもってしてまで借金を回収することが許されるのですか」 【多重債務取材班】

 04年8月31日。兵庫県宝塚市の弘中照美さん(46)が駆けつけた時、母真沙子さん(当時67歳)は小さな体をふとんに寝かされ、まゆをひそめた顔をしていた。四十九日の直前、大手消費者金融など4社の請求書が遺品から見つかる。弘中さんの兄が病気で倒れ、入院費を工面するため借り入れを始めたらしい。催促は死亡前後の1カ月余りで5通が集中していた。

 弘中さんは司法書士事務所に勤め、多重債務の相談に応じてきた。夫(当時)の電気工事会社が傾き、消費者金融に頼って苦しんだ経験があるからだ。母は立ち直った娘の姿に喜び、「あなたより大変な人を支えて」と励ましてくれた。「それなのに母を見殺しにした」と自分を責めた。

 05年6月、自宅に届いた消費者金融からの「ご依頼書」に打ちのめされる。債務は約63万円。消費者金融は、母が貸借契約を結んだ00年に加入したという消費者信用団体生命保険の支払いを生保に請求するため、死亡診断書か死体検案書の提出を遺族に求めた。「死亡原因 縊死(いし)」。震える手で探した診断書の文字を正視できなかった。垂れ下がるひもを見れば吐き、一周忌が近づくと夜眠れなくなった。

 貸借契約書を調べてみると、片隅に「生命保険の被保険者になることを承認」と印字されているが、保険加入に関する書類はない。「母は知らないうちに命を担保に取られ、追いつめられた」

 再婚した夫が借金を利息制限法(15〜20%)で計算し直すと、1万6000円の「払い過ぎ」だったことも分かった。亡くなる2カ月前に返済を終えていたことになる。「お母ちゃん、全部ちゃんと返してたんやで」。今年3月、保険金請求権の不存在確認と慰謝料を消費者金融と保険会社に求め、神戸地裁に提訴した。7月26日、裁判で消費者金融側は自ら債権放棄の意向を申し出た。

 ◇「自殺でノルマ、ほっと」−−感覚まひの金融元社員

 昨年夏、弘中さんは岩手県で開かれた多重債務者支援の集会に参加した。母が借りていた消費者金融の元女性社員が体験を語った。「客が自殺すると初めはショックでした。でもだんだんと『あ、死んだ』と。(債権回収の)ノルマがすんでほっとするみたいな」

 弘中さんは、この女性に「話してくれてありがとうね」と手を差し出した。女性は泣き崩れ「ごめんなさい。ごめんなさい」と、顔をひざにすりつけるように頭を下げ続けたという。

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 ■解説

 ◇遺族には支払いなし、業者言い値で保険金

 消費者金融の賃貸借契約は生命保険の加入とセットで成立する点で銀行などの住宅ローンと同じだが、その目的は本質的に異なる。住宅の場合、契約者の明確な意思に基づき、本人が仮に死亡した時に家族が生活の場を失わずに済むという意義がある。社会的に認められているゆえんだ。

 一方、消費者金融の生保加入は、本人が契約自体をほとんど知らないことに加え、保険金が遺族を素通りして業者に支払われる。死因が十分審査されない場合もある。しかも利息制限法を超えて本来は支払わなくていい「債務」が含まれていても、業者の「言い値」で保険金が下りる。消費者金融側は「債務者の遺族に負担をかけないための保険」と主張するが、命の「対価」に本人や遺族がかかわらない仕組みは正常とは言い難い。

 この保険は契約から1年たてば自殺の場合も支払い請求できる。過酷な債権回収ノルマがあるとされる業界で、保険を「最後のとりで」として厳しい取り立てを誘発するという指摘もあるが、保険の支払件数や金額、自殺者の割合は公表されていない。

 生保はかつて、従業員の同意を得ていない企業との間で保険契約を結び、社会問題化したことがある。消費者金融と生保は「命を勝手に担保に取るのは公序良俗に反する」という批判に、正面から答える必要がある。

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 ◇情報をお寄せください

 ファクス(03・3212・0635)、Eメール t.shakaibu@mbx.mainichi.co.jp 〒100−8051 毎日新聞社会部多重債務取材班。

毎日新聞 2006年8月15日 東京朝刊
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2006年08月17日

信用情報、悪用 「借り換えが得」業者、交互に勧誘

◇負債データ、よどみなく列挙

 「借りすぎ防止」のために使われるはずの顧客の信用情報が、当然のように悪用されていた。「600万円の返済は大変でしょ。うちで借りるほうがお得ですよ」。熊本市の多重債務者の携帯電話は、借り入れの明細を知った大手消費者金融からの勧誘で日に何度も鳴る。その繰り返しで借金は何倍にも膨らみ、マイホームを失いかねない状況に追い込まれた。【多重債務取材班】

 7月中旬、熊本市の男性(68)は、大手消費者金融A社の女性社員から電話を受けた。記者は男性の了解を得て約40分間のやりとりを録音した。

 「現在のお借り入れは5社で600万円ですね」。社員は男性の借入先と債務額、最近の返済日をよどみなく列挙した。黙り込む男性に「これは情報センター(のデータ)なんで」と情報の入手先を自ら明かした。

 その全国信用情報センター連合会(全情連)は、個人の消費者金融の利用状況を蓄積、提供する各地の信用情報会社が76年に結成し、信用情報の適切な管理や利用を指導する立場にある。

 A社は、自宅を担保に100万円上乗せした700万円のローンを提案した。毎月11万円余りを7年で返済する契約で「書類はできている」という。「返せない」と答えると、「返せないわけないですよ。(金利を下げて借り入れを1社に)まとめた方が安くなるじゃないですか」

 男性はJR九州で車掌を務め、93年に退職。退職金から1500万円を出し、母の貯金と合わせて2200万円で家を新築した。今は妻子4人で暮らす。酒も賭け事もやらず、借金と無縁の余生を送るはずだったが、再就職して歯車が狂い始めた。同僚に頼まれ、消費者金融で50万円を借りて渡した。同僚は姿を消した。退職金は残っていない。借金は01年末で3社120万円に膨らんだ。

 ほどなく大手B社から「今より返済が楽になります。自宅を担保に債務をまとめませんか」と誘われた。金利はそれまでよりは低い23%。「少しでも安くなれば」と、担保設定などの諸費用を含めて200万円のローンを組んだ。しかし、月々の支払額は増え、他社から借りては返す悪循環にはまった。

 男性はその後もA社、B社と交互に「債務の一本化」を繰り返す。2社は信用情報を使い、競りのように少しずつ金利を下げながら貸付額を増やす。1人の債務者をキャッチボールしているかのようだ。恥を忍んで親族に借りた150万円を返済に充てたが、焼け石に水だった。

 A社が今回提示した金利は、B社より0・1%だけ低い9・5%。「なぜ最初から9・5%で貸さなかったのか」。男性がこう尋ねた瞬間、社員は初めてたじろいだ。「できないです。そういう商品がなかったんで」

 社員は言った。「どちらを選ぶかということですよ。全体として安くなって7年できれいに終わるか、B社さんに高いまま払い続けるのか」

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 ◇情報をお寄せください

 ファクス(03・3212・0635)、Eメール t.shakaibu@mbx.mainichi.co.jp〒100−8051 毎日新聞社会部多重債務取材班。

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 ■男性の借り入れの経緯■

       借入先 借入額  利息    月返済額

           (万円) (%)   (万円)

01年12月  3社 120    ?    5.5

02年 1月  B社 200  約23    7

   12月  A社 350  約15   10

04年 3月  B社 700  約13    8

05年 2月  親族 150   −−    −

        (B社返済に充当)

        A社 600  約10    7

    6月  B社 600    9.6  7.8

06年 6月  A社が勧誘(700万円)

    7月  債務整理を司法書士に依頼

    7月時点での債務:B社500万円、A社など4社110万円、親族150万円

 ※一部は男性の記憶に基づく

毎日新聞 2006年8月17日 東京朝刊
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